裁判傍聴体験記! 初出:月刊交通違反(旧称・月刊 Traffic Issues Now)号掲載

 いわずもがな、裁判というのは関係のない赤の他人が傍聴することが可能である。実際それを知りながらもまだ一度も裁判の現場というのを見たことがないオイラことRED-WINGSに、ついに平日に身が明いてそのチャンスがやってきた。それが今回の裁判(1999-2/3横浜地裁第一民事部)傍聴だ。

 さて、今回の裁判は当Traffic Issues Nowとその機関誌・月刊交通違反でも度々取り上げ誌面末端の告知欄にて追跡的に裁判告知を続けている1998年頃北海道でのネズミ取り他幾つかの違反が不起訴処分になっているにも関わらず『前違反歴あり』として優良運転者扱いで運転免許更新がされなかった(優良だと通常三年の有効期限が五年になる)事について原告・滝井秀和氏が神奈川県公安委員会(滝井氏の免許の行政処分を決定した所)を相手取って更新期間を本来の優良五年に、それから更新の講習料の差額(優良運転者の講習は通常より千円安い)も返還を要求するものである。

 実は同日、東京簡裁の方で別の交通関係裁判があって、どちらを見に行くべきか迷ったが…現在の『間違った取締まりによる違反が不起訴を勝ち取っても点数加算や行政処分を課される』という問題を掘り返した滝井氏の裁判に興味を覚え、個人的に『バイク・神奈川県公安委員会』というキーワードもあって(笑)横浜地裁の方の裁判を傍聴に行く事とした。

 いちおう当日、傍聴経験者に電話で訊いて必要なモノと持ち込み禁止物品、服装の制限等を確認。必要なモノは特にないそうだが各自で必要ならば速記し易いメモ用紙等を用意する。持込み禁止物品と禁止服装はテープレコーダー、おそらく形状を問わずヘルメット、当然ながら火気薬品違法器物、それから裁判というからには組合運動等を連想させるメガホンや拡声器、のぼり、ハチマキ、たすき類も禁止だ。オイラの事、一応『バトルスーツみたいなのもダメだよ』と言い加えられてしまった。(…さすがに裁判にゃ着ていきませんてあんなの。ご安心召され) 

 さて裁判所に到着。建物内には特に何の記入もおとがめも無しに入れるようだ。ただし今回の『第一民事部』でも同じ部署名でいて各階各部屋に分かれており、入り口を入った所付近の目立たない案内板に何の裁判が何号室で行われるかが書いてあるので確認した方が良い。その他には裁判官室、当事者同士の控え室なんてのもあり(ふむ…ここで当事者同士が顔を付き合わせてケンカになりゃせんだろうか?)とオイラは思ったがその隣に和解室というのもあってとりあえず納得した。

 ところで当日、オイラは見事なまでに開廷まで間に合わなかった。(浅はかにも関内だったら近かろう、と県庁前でバスを降りてしまった。結果、猛烈に歩いた…)おかげで目的の部屋には開廷中のランプが点いて扉が閉められていたが、この場合は自分で扉を開けて中に入れるので心配は無い(特別に傍聴が混んでいる裁判はこの限りではない)。ただし開廷中は当然ながら室内が異様に静かなので途中から入るとどんなに静かに動いても目立つので注意。

 当日になってオイラは知ったが、裁判というのは証人尋問や反対尋問等、一つ一つ日を設定して行われるらしい。この日の裁判の内容は原告側・滝井氏への質問の日だった。尚、この裁判で問題とされる行政処分の要因の違反については滝井氏は他にも不起訴になった違反があったが、例え過去数年以内に一回でも違反があれば優良運転者か否かが決まるということもあり今回の裁判では北海道のネズミ取り一件に絞って争われている。

 当日は裁判は1時間が設定されていたが実質約45分位で終わった。質疑応答の流れは被告・神奈川県公安委員会側の弁護人が原告側に質問、原告側は弁護人なしでやってるので滝井氏本人が答弁。またその回答に対し裁判官や被告側弁護人が原告に尋ねたりし、何もなければ『以上です、裁判官』となる。

 参考までに本件の発端となった取締りとはネズミ取り。測定は白黒パトカー内車載のレーダー(三菱電機製RS-710B)により北海道の見通しの良い直線路で行われた。違反名は速度超過。法定速度40km/hの所を原告は27km/h越える67km/hで自動二輪車を走行させというものである。当時から滝井氏は計測された瞬間、後方から四輪車に間近までに迫られていた為減速もままならず速度もその四輪車の計測値であると主張している。(氏自身は50km/hで走っていたことを主張)

 最初の(オイラが傍聴に入ってからの)被告(神奈川県公安委員会)からの質問は『現場は二車線ある道路なのだから、車が後方に来たなら左に避けられたのではないか』というもの。これに対して原告(滝井氏)は『左側車線には駐車車両があり、状況的に無理だった』と回答。それについて被告が原告に『取締りを行った警察官の調書には駐車車両の存在した原告の主張が書かれていないが?』と質問、原告は『いえ、私は(駐車車両の事を)言いました』と回答した。

 続いて裁判官から原告への質問。『原告はレーダーに詳しいがそれは何故か』これに原告は『文献を調べた』と回答。レーダーに関する書類(状況図を含む)と現場写真を見て裁判官は『これは詳しい(鮮明な)書類(写真)ですが、誰が作成(撮影)したのですか』と質問し、これに原告は『自分が作成(撮影)した』と述べた。次に裁判官は『原告は走行中は普段、スピードメーターを確認していますか?』と質問、原告は『普段はもとより高速道路では特に確認するようにしています』と回答。そこで裁判官が『50km/h(原告の主張する速度?)と67km/h(レーダー測定値)の違いは(感覚的に)判るものなのですか?』と質問、原告は『その時後ろに車に付かれたので速度メーターを見ました』と回答している。

 そして最後に裁判官が今回の争点、処分の要因となったスピードについて原告に尋ね、原告が『事実と違う速度で処分されているのでおかしい』と答えると、ではその結論(判決)を3月に出しますと述べ、これを以て閉廷とした。

 全員が無言にてぞろぞろと退室(傍聴人はオイラ以外はほとんど神奈川県公安委員会関係者のようだった)、最後に一人の年輩の人と話しながら滝井氏が出てきたので久々ということもありご挨拶。年輩の方の提案で喫茶店に寄りこの日のまとめ話をする事になった。

 戴いた名刺で判ったのだが実はその年輩の人が道路交通民主化の会の名士(単にかぶき者+強者÷2の噂も)小関氏だった。(レーダー計測現場の略図は小関氏が入手したモノらしい)

 喫茶店でのまとめ話で小関氏が、レーダーの照射に際して二輪と後方の四輪とでは反射のタイミングと反射率に狂いが生じることを述べ、その点を質疑応答の際に滝井氏が主張しなかった事を指写摘。その他にもレーダーと計測される二輪車の間に思いっきり道路標識の鉄柱があってそれが判る写真(裁判官が感嘆するほど鮮明なカラー写真)を提出していながら何故それを言い加えなかったのかについても悔やまれた。原告となっている滝井氏の今後の、柔軟な機転に期待したい。

 今回が裁判の傍聴の初体験となったオイラ自身は、本件については速度違反うんぬんよりも果たして法廷の場に連中の『不起訴なのに行政処分・大作戦』が通用するか否かに興味があった。司法をカジった人間なら基本としてご存知の事と思うが(オイラ自身は司法なんぞカジっちゃいないが)以前に出た同ケースの判例というのは今後の様々な判決の決め手となる。だから、建前は優良運転者扱いで更新されなかった程度の行政処分とはいえ(程度、と言ったら滝井氏が怒りそうな…)この裁判の行方については注目すべきであろう。

1999-2 文責・RED-WINGS Riding&Publishing.Project/TIN

 

戻る ※ブラウザの『戻る』ボタンをクリックして下さい