地に堕ちたウイングマーク  初出:バイク玉96年冬号/月刊 Traffic Issues Now 8号掲載

 正式名称なんぞ知らないが、警視庁が発行する交通安全促進を目的としたステッカーがある。警視庁の記章、羽のマークを象ったねので、白バイやライダーのヘルメットによく貼られている。街中(?)で見かけることが多いと思う。これは実はこれ、『警視庁』の文字以上のステイタスを持っている、誇るべきマーク、だったのだ。 これが貼れる、つまり入手できるチャンスに恵まれた者は白バイ隊員や交通安全指導員を初めとする警察関係者、教習所のインストラクター、それらのOB、もしくは密接な関係にある、または手伝ったりすることがある者、警視庁主催のジム・カーナ、安全運転実技講習の常連や受賞者などの、『その筋の人間』。筆者のオイラから見る限りどの人間も『手練れ』であり、道路上に於いて一部の隙もなく、守るべきところの法規は守り、運転技量も一般のライダーと比較できないほど非常に巧みなものであった。(おそらくキャリアの違いとか交通安全促進に己の身を置く生活の自覚からくるものだろうが)それがため、これまでの都内で仕事するオイラはそのステッカーが貼られている者については全面的に信用し、走行ラインをトレースしたりしてずいぶんと楽させてもらったものだが(笑)実際にそれ以上のしっかりとした走りを見せつけられるのが常であった。
 ところが、である。 近頃ではその警視庁マークが妙に氾濫している。そればかりか無意味に危険な運転をするようになってきた。
 初めは「最近あのステッカー貼ってるのにバカな運転するヤツが急に増えたなぁ…」と思っていたが、何かがおかしい。どう見ても道路経験3ヶ月未満を思わせる走りの若者ネイキッド小僧、同じく街中をフラフラ走る原チャリ小僧、果ては仮設低速移動式シケイン(カブオヤジ)の黄色くくすんだオワンヘル(革製の耳かけ付き)にまで貼ってある……???
 どうも最近ではこのステッカー、警視庁がそのへんの安全運転講習(レベルを問わず)等のキャンペーンの度にその参加者全員に景気良くバラ撒いてくれているらしい。かくいうオイラも、道端にパイロンを立てただけの、ただ皆は一列になってそれを走るという簡単な講習に飛び込み参加した日があったが、その時も「時間がない」ってことで1メートルもそのコースを走らないで貰えてしまった。(行列にも並んでない)仲間と一緒に都内を走った日に巻き込まれた出来事だったが、彼ら(現場の警官)の撤収の際の、ステッカーをくれた時の「時間無いから(もう終わりだから)この紙に名前だけ書いて、そしたらこのシール(まさしく警視庁ステッカー!)と参加賞あげるからっ!」という言葉は鮮明に憶えている。(おそらくその参加者数が多いほど警官と署の実績が上がるか、さもなくばそういったノルマがあるものと思われる)
 その他にもこのステッカー、たばこの新製品キャンペーンよろしく講習などのイベントのたびに配り放題… どーりでそのへんでだらしなく走っている輩のヘルメットに貼ってあるわけだ!
 もう、この警視庁マークを貼っている者でも、ベテランとは限らない。(むしろ最近では貼ってないヤツの方がマシ)つい何年前の昔みたいな、ごく一握りの手慣れにだけ与えられる称号ではなくなってしまったのだ。昔からそれを貼っているベテランは今頃必死になって剥がしにかかっているだろう。(もっともそれを気にする人ならの話だが…) 当時は見るだけでステイタスを感じさせ、その筋のつき合いの多い者が貼るケースが多いことから路上でも白バイ隊員に好感を持たれたこのステッカーも、今では何の役にも立たない、パーツメーカー等の市販ステッカーと全く同じとなってしまった。
 唯一、判別するとしたらその警視庁ステッカーの色ぐらいでしかない。金一色、銀一色であれば交通安全指導員や教習所のインストラクターやジム・カーナ、講習会の常連というベテランだと判る。また、それ以外の色では緑ワクは間違いなく偉くも何ともないバラまきステッカー(オイラのもそれだった)、紺色(黒?)は一部のみ昔から貼っているベテランがいるので注意されたい。
 だいたいにしてステッカーが何色かを見るよりその走りに天地の差が見受けられるので実際にはさほど判別に労しなかったりする。

 「警視庁ステッカー」とかけて「ブレンド米」と説く。してそのココロは、入手が簡単になった分うまくない奴が混じって質は全体的に低下してるから。 …うーんちょっとベタベタ(笑)

1997.1 文責/RED-WINGS Riding & Publishing Project 赤羽

 

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