乗用車広告の行方 初出:月刊 Traffic Issues Now 2号/バイク玉96年夏号掲載

 これまでの、「車の走行性能」だけでなく、安全技術や装備まで向上している昨今の国産乗用自動車。開発における姿勢としては、実に良きことだと思う。ちまたの自動車の広告やTVコマーシャルでも、エアバックに始まりABS、そしてつい最近では某大手メーカーが売りとしている対衝撃ボディ[G●A]・・・

★エアバック……衝突の際、瞬時にハンドル中央等に内蔵されたエアクッションを膨らませ、ドライバーがハンドル、フロントガラスに衝突するのを防ぐシステム。最近では運転席だけでなく助手席や両サイドにも内蔵した全面エアバックもある。

★ABS……ホイール等に取り付けたセンサーにより、車輪のロックを関知し、瞬間的にブレーキ圧を開放させ、タイヤのグリップを回復させる。車輪がロックするとコントロールを失うため、このシステムの発想が生まれた。「ABS」は、アンチロック・ブレーク・システムの略称。

 どれのCMを見ても… どんなに激しく衝突しても、ドライバーがどんな運転操作ミスを犯してもケガをすることが少なくなる(なくなる)、と思わせる(実際にそうなのだろうけど)宣伝ばかりである。これを見れば、車の運転や事故が恐くて今まで乗りたがらなかった人が車を買う気になるかも知れない。より安全な車を知ればそれに買い換えたくなるのもユーザーの心理。また、メーカーにとってもそれが狙いでもあるわけだ。・・・・が、しかし・・・・・・ 何か大事なことを忘れてないか? 確かに、「安全」にこしたことはない。誰もがそういった車(技術)を望んでいる。ここで言いたいのは、その表現についてである。「こんな勢いでぶつかっても、ごらんの通り運転席はぜんぜん大丈夫です」「ロックによるコントロール不能がないから、いくら慌ててブレーキを踏んでも平気。当メーカー全車種に装備しました」「激しい衝突の場合、瞬時にエアバックが作動し、顔や頭を守ります。横にも後ろにも装備、どこからぶつかっても安心」 これらの言いたいことは全て「本来、細心の注意を払わないと危険であった運転操作やその結末が、危険ではなくなりました」という意味に他ならない。少なくとも、一般の聞き手にはそう聞こえる宣伝ばかり。はたして、これによって死亡事故やケガ人が減るだろうか? ・・・・減らない。減ったのは運転者の安全意識だけである。TV・CMを注意してみても、これらのCF(フレーズ。言わば、売り口上)の中に「これらの装置は、無理な運転によって発生する事故を防ぐ為のものではありません」といった言葉は見当たらない。あったとしても、カタログのすみに小さく書かれているかいないか、という程度で、見る側にしてみれば「安全になりました」しか目に入らない。安全意識の欠落したドライバー、緊張感のない運転、これほどに危険なものはない。
 ここで各メーカーに警鐘。本当に安全な車を出したいのなら、自分たちの所の商品(車)の安全を願うのなら、優先すべき表現(CF)の順番が逆じゃないか?運転者の安全意識があって、その上、車も信頼できるものであって、初めて安全という言葉が生まれるはずではないか? 残念なことに、現状のCFを見る限りでは(特にどことは言わないが対衝撃構造●OAとか)安全技術を披露してドライバーを安心させればいいというようなものであり、それだけが進化してゆく。 全面エアバックにABS装備、対衝撃構造のボディに身を包んだ新型乗用車を安心して乗り回す人間が、この先、何人の歩行者を跳ね飛ばし、何台のバイクを轢き潰すか、楽しみだなぁ。

1996.7 文責/RED-WINGS Riding & Publishing Project 赤羽

 

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