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悪魔考証




『真実の岩』

  古の時代より神の手に創られた、『真実の岩』と呼ばれる岩があります。
 人面を型取られた大きなその岩の口は、偽りに生ける者の手を噛み砕くと云われています。

 ある夜のこと。一体の悪魔が岩の前に降り立ち、その手を岩の口にさしのばすと、こう言いました。
「ヒトツノ真実ノ為ニ、多クノ偽ガ生マレル… 真実ノ存在コソガ、偽ナノダ」
 真実の岩は、悪魔の手を噛み砕きました。
 悪魔は笑い、その場を去りました…

『教えて下さい』 貴方にとっての真実とは、何ですか?
『言い切って下さい』 それは貴方の見えざる方向から見ても、真実ですか?





『少年と夢魔』

様々な種、様々な位、様々な形をした悪魔が、人間の世界に現れます。
 魂の祭典。
 悪魔達は、それぞれの方法で集めた魂をその場で披露し、自分達の種の実力を証明します。認められた種族は繁栄が約束され、認められない種族に服従を強いることが出来ます。
 人間や神と呼ばれる存在が知ることのない、真の満月を「刻」と呼び、「刻」とともに魔族達はある意味で狂い、ある意味で本性を露にし、ある意味での安息を得るのです…

 一人の人間の、少年がいます。
 家の二階の窓から少年は、いつもより一段と綺麗な−− そして美しく夜空に輝く満月を眺めてはため息をつきます。
 その目には涙が光っています。
 少年は治すことの出来ない病にかかり、次の満月までさえもその命を留めることが出来ない身体でした。そしてその少年は、日々、自由の利かなくなる体で、それを理解していました。
 少年は、虫達の鳴き声を聞きながら自分も泣きます。
 毎晩、夜空の下で少年は泣いていました。
 いつにも増して綺麗な満月がもう見れないと思うと悲しくて、もう長くは生きられないことがとても悲しくて、その夜はたくさん泣いていました。
 窓の下の、虫達の鳴き声を聞きながら、少年は泣き続けるのです。
 季節も終わりです。虫達も、少年と同じく僅かな間しか生きられません。

「せめて美しい声で鳴ける、虫になりたい」
 泣きながら少年は思いました。

  −−−−ソノユメヲ、ミセテヤロウ−−−−

 不思議な…そして冷たい声を掛けられて、少年は辺りを見まわします。
 少年は自分のすぐ上に浮いている女の人を見上げました。
 翼と角、青銅色の身体を持ち夜空に浮いていることからその者が、女の、「人」で無いことがわかります。

  ・・・悪魔

 サァ、「ユメ」 ヲ…

 少年の意識と一緒に、その冷たい声は遠のいていきます……

  しばらくして少年は意識が戻りました。しかし少年は、不思議な感覚に捕らわれています。
 彼は自分が虫になっていること、そしてまだ夢の中にいることに気が付きました。

 虫達は一生懸命鳴き続けています。
 仲間となった少年も、一生懸命鳴き続けました。

 少年は気がつきました。

「虫達は、それぞれ自分の最期の日を知っている… しかし鳴き続けるのは命を失うことが悲しいからでなくて……
生きている間、自らのできることを精一杯したくて、鳴いているんだ」

 少年が夢から覚めると、人間に戻っていました。

 悪魔の姿は、もう見あたりません。

 その日から少年は夜に泣くことをやめ、残り少ない日々を精一杯過ごし、すがすがしい気持ちでその命を終えたのでした。

 『刻』と呼ばれる真の満月の夜
 異形をなした悪魔達が、人間の世界に現れます。
 魂の祭典。
 悪魔達は、それぞれの方法で集めた魂をその場で披露し、自分達の種の実力を証明します。
 魂は、その生前が敬虔であるほど意味をなし、清楚であるほど評価されるのです。
 腕におぼえのある彼らが持参した魂とは聖人、聖職者、高僧、司教から法王までのどれもが見事で申し分ないもの。
 しかしその中でいちばん、『清らかで価値がある』と評価されたのは…
 一介の夢魔が持ち寄った普通の少年の魂でした。





悪魔的考証

 実を言うと神話・伝承・宗教・思想・歴史・考古学の類は結構苦手です。
 そもそも神と悪魔の隔たりは全く同じ存在が人の考えによって如何様にも変わり得るものを、信仰だの勉強だのと、馬鹿馬鹿しくて鼻先で笑うにも鼻息がもったいないと言うくらいです。(ケチ?)
 しかしながら。
何が良い、何が悪いとされていくこの世に、アンチ精神に重きを置き考えていく上で、悪魔または悪(とされてしまった存在)に対しては…少なからず親近感も湧こうというものです。
 ここでちょっと前述の短編『真実の岩』から引用してみます。

ヒトツノ真実ノ為ニ、多クノ偽ガ生マレル… 真実ノ存在コソガ、偽ナノダ

…という言葉が出てきます。これに含まれることの意味、ですが…、お読みの貴方さえも現実で知らず知らずのうち幾度も実感させられているかもしれません。今回はこれを要点として述べていきたいと思います。
 前述の短編のお話の中で『真実の岩』は悪魔の手を噛み砕きました。
…という事は、悪魔は「嘘、偽り」を述べたのでしょうか??
 違います。ちゃんと真実を述べました。しかし真実の岩なら本当の事を述べている者の手なら、たとえそれが悪魔のであっても噛み砕いたりはしません、つまり…… これは真実の岩にとっては真実でなかったということになります。
 現実にある物事の全てが真実からスタートしている保証はどこにもありません。例えば人にあがめられ人を導く存在、または教えの元となる存在(例えば神とか)が現実の偽りを「肯定」し真実としてしまえばそれに導かれるものはそれを真実として覚えます。また現実に真実であっても人にあがめられ人を導く存在が否定すればそれは偽りと伝えられてしまう、…ただそれだけのことなのです。神の創りたもう『真実の岩』も、同様です。
 では悪魔の、「一つの真実が多くの偽りを生む…」、というのはどういうことでしょうか。
 「真実なら真実、偽りを生むなんて…そんなこと考えられない」と思われるかも知れません。
 公として伝えられ、それを万人が認めている事ならそれはそれで、「常識」「一般論」の中では真実でしょう。それを違うと思った自分が異論を唱えるのは今の世の中、特に日本なんかでは、それはそれは難しい事です。はっきり言ってしまえばそんな面倒な事はしないで周囲の意見に同調して、周囲と同じ行動をとって生きるのが一番安全で楽です。確実さで決めるならこの場でもそれをお勧めしちゃうくらいです、ただし…
 その考えを元に行動を起こしたり発言するとなると、少し話が違ってきます。自分で考えるだけならともかく、言動というものは周囲に影響を及ぼすからです。
 例えば我々は、常に情報を取り入れ、それに基づいた判断やプランを考え行動(計画を実行)します。情報は自分の目に見えたり耳に聞こえたりまた人の教え、噂…それらから得る情報はあたりまえですが正確なほど、そして新しいほどに価値があり、その最たるものが現在の新聞やTVニュース、雑誌、ラジオ等かと思います。逆手に考えればこれらによってもたらされる情報は我々の社会生活、ひいては思想までにも影響し大きく変化させます。株式、事件、世界情勢… 皆さんも、「昨日の野球の結果はどうだった」とか、昔の湾岸情勢で例えるなら国連の攻撃に対して中東の石油原産国が報復として原油を湾岸に放出したとか、日本では長野で毒ガスを発生させた男が捕まって無差別テロの容疑で取り調べを受けている…伝々をニュース等で知ってはその話をもって周囲と接し、話題としたことでしょう。中東が放出した原油のために真っ黒になった海や水鳥を見て、長野で捕まった男の家から毒ガスの原料となる化学薬品が出てきたことをニュースで見聞きしては「ひどい事をする」「あの国は許せない」「罪のない人々を殺して…」「人間じゃない」と論じ合ったりしていたのではないでしょうか。また、それらの話題が出来る事によって他人との協調を計ったり、相手を判断したりもするのでしょう。
 しかしながら、それら話を、新聞・TVニュースでやっていた(その中で国や警察が言っていた)からと盲目的に判断し過ぎてはいませんか?
 もちろん人の言うこと、マスコミ報道は全てウソだから信じるなとはいいません。皆さんは、放出された原油というのも実際に映像で見ました。情報は前述の通り生活に必要不可欠です。

 でももし、中東から流出した原油というのが実は、国連軍の爆撃によって原油貯蔵タンクが破れて流れ出したものであったら?

 実は毒ガスを発生させた宗教絡みのテロ集団が別にいて、捕まった男は全くの冤罪(無実の罪)だったら…?

 話を戻して神…例えて、皆さんの信じる報道という名の神は原油の流出した映像を見せてくれました。

 確かにこれは真実です。
 が… 見せてくれたのは、その部分だけでしたね。

 試しにあてはめてみて下さい。報道が「神」で、その神が教えてくれた「真実」が実は冤罪(偽り)で、盲目的に信じた「真実の岩」たち、それを指摘するも、結局は「常識」や「一般論」の名のもとに手を噛み砕かれた、「悪魔」……

「1ツノ真実ノ為ニ、多クノ偽ガ生マレル… 真実ノ存在コソガ、偽ナノダ」

 悪魔の述べたこの言葉は、真実として伝えられる物をそのまま捉えることについての矛盾を皮肉ったものだったのです。
 真実の象徴であるはずの岩がその真実を否定する言葉を聞かされれば「偽り」と判断するのはごくごく当たり前の事で、岩は我々で言う「常識」「一般論」のもとに「真実」を「実行」したつもりで、悪魔の手を噛み砕いてしまったのでした。
 しかしこれでは偽りの上塗りとなってしまいます…
 つまり悪魔の去る時の笑いは、勝ち誇った笑いだったのです。

 物事について、常に情報を取り入れて、それに対しての自分の考えも持つ… これは大切なことです。
 しかし自分自身がそれら情報や考えを人に伝える場合においてはその言動が、新たなる情報の発生源としての責任が伴うということを、人間、常に心がけておきたいものです。

 文責:RED-WINGS






ショート(短編集)についての解説

 単純におとぎ話です。論理学…等のディープな話の前に軽く読んで貰えるとありがたいですね。

 『夢魔』に出てくる悪魔は以前の創作にも出したヤツでして、本当はもっと狡猾で陰険な性格、いや設定です。
 話そのものについては全然脈絡もありませんが、仕事先のビルの敷地内にあるカルガモ池に住む話題のカルガモ親子(TVでも報道されたカルガモ一家の引っ越しで有名)を眺めつつ、思いつきでその場でメモにスラスラと書いたものでした。いや…なにか、「こいつらも一生懸命生きてんだなぁ〜」と(笑)

 『夢魔』に出てくる悪魔は、狡猾で陰険ですが、それだけ物事を考えます。
 世間の価値観にとらわれず、どうすれば一番効率が良いのか、悪魔はちゃんと知っています。
 悪魔に出会わなかったほうが少年はもっと永く生きられたかもしれませんがー…、んなこと悪魔の知った事じゃありません。
 単純に、人間の弱い心につけ入ることにより利害が一致しただけのことで、結果として現実を見せつけられた少年がそれを良いと思うか悪しと思うかは彼次第なのでしょう。
 この話で僅かながらも繁栄した王族の末裔が、ここで紹介されあるいは描かれる夢魔達という設定になります。
 なぜ、神格でもない、話題にも伝説にも上らなければ、たいした実力もない、意識体だけの種族が魔界の長となり得たのか… それは彼ら魔族達にとってちっぽけで何にもならない人間という存在から生み出された故、人間と唯一の接点を持っていた夢魔族だからこそ容易にできた事なのかもしれませんね。

 『真実の岩』は、映画「ローマの休日」でも有名ですね。大きな人面の岩の彫刻(彫刻?)で、ウソついてる奴が噛まれちゃうってやつ。実物も国の観光名所として存在します。
 オイラあたりは…頭からカジられないと、悪いところも良くならないのかもしれませんね獅子舞みたいに。







当サイトのモチーフ(悪魔)について

 人型をしていますが、人外です。悪魔です。もののけです(笑)
 悪魔の中では、人間の邪念や欲望が意識体として成るナイトメアの属系としています。(だから擬人化、と。…こじつけ)
 モチーフに悪魔を起用したのは当の本人が『人間でありながら悪魔的性格』(狡猾・陰険・卑劣)であるのを理想とし日々精進している為であり、また、当サイトの総合的なトレードマーク(看板)としても使用される為、デザインにポーズや向きなどで視覚的なスピード感を持たせてあります。
 総合的に「悪魔的性格・走り方」を表現したものです。
 尚、初期の頃はほぼ人間型のスタイルを保っていましたが、角の数増加・全身体毛化(気にするな…趣味だ趣味)人間腕を廃し翼手化・手足退化背筋強化・左右非対称の蝙蝠尾の採用・時には銛を装備させる等、細かい改良も行われて現在に至ります。