ゲストコラム
オーナーとしての対策

2002,7/29 文責: KROG副会長/”外道”近岡

 

80年代中期のオートバイを稼動状態に保つことは、常に気を使う。すでに設計段階での使用限界を超えている固体が、ほとんどのはずだ。

 80年代の他車種は、よくわからない。しかし、KRの場合、各個所の新品での使用限界が、1万キロ前後に設定されていると思われる。典型的なのが、カムダンパの調整である。マニュアルへの記載はないが、1万〜1万5千キロ走行毎に調整を行う必要がある。関連各部のセットアップも同様である。

 ということは、1万キロごとのオーバーホールが必要になるということである。そこで問題になってくるのは、エンジン内部の消耗品についての供給不安である。当然、ピストンやピストンリングは交換したい。しかし、今までの川崎重工の2ストロークオートバイに対する対応を考えてみると、頼りなく感じられる。いっそのこと、マーレやコスワースに1000個単位でオーダーすることも考えなければならないのかもしれない。

 前述の「使用限界」とは、設計段階で想定される「寿命」のことである。80年代の各車は、その商品性を外面的な雰囲気作りに求めていた。セパレートハンドルやアルミフレーム、フルカウルなどの派手な演出に売上が追随していた時代だったのである。KRが営業サイドからのプレッシャーで前倒し販売されたのも、時代性のなせることである。

 この頃から、量産車のコストダウンの手法が確立されてきている。それは、「必要な強度」が「必要な期間」確保できればよいというものである。見えないところには、無駄なお金を掛けないのだ。(無駄かどうかは別にして…)

 これがよく云われるZ1の過剰品質とは、わけが異なる。60〜70年代は、とにかく当時の最高品質の素材・部品でなければ、要求性能を達成できない事情があった。CB750K0も同様である。マッハ500SSでは、エンジンの出力にフレームや脚周りが追いつかないということもあった。最高の技術を投入しても製品としての完成度が及ばない時代だった。80年代以降の技術・エンジニアリングからいえば、無駄にコストを掛けていたことになる。

 80年代では確信犯的に、素材・設計でレベルダウンを行っている。というよりも、価格の上がってしまった最高品質の部品を導入できないのである。ここにコストと販売価格との帳尻合わせが出てくるのだ。

 パーツリストでベアリングの品番を引いてみるといい。KRで使われているベアリングはそう上等なモノではない。手を入れる際に、同じ形式・同じ寸法の最高級のベアリングを組む価値は十分にある。

 贅肉を削ぎ落とされたタイトなクランクケースはどうだろう。あなたのタンデムが過去何回ものOHを繰り返されているとしたら、きっと合わせ面のネジリブ付近にクラックが何本か入っているはずだ。そこから一次圧縮漏れがあるかもしれない、ないかもしれない。

 エンジンの隅々まで触ってみて、バラしてみて、SMやPLを探してみてそれが判るのだ。

 直して手を入れて乗り続けるか、とっとと見切りをつけて4stに乗り換えるか。それはあなた次第である。

 今では直してくれるバイク屋も無いに等しい。

 

1、 エンジン

 エンジン部はバイクにとっての心臓部である。KRだからといって特別なメンテナンスは下述するとして、まず一般的なメンテナンス心得から始めよう。

・エアクリーナーの洗浄。これは、ガソリンか軽油で洗って、2stオイルで湿らせればよい。劣化してくるとケーキのスポンジの様に指で簡単に穴が開く。こうなったら交換だ。

・点火プラグ。B8ESもしくはB9ESが指定のプラグである。純正の状態でカブる、薄いといった事例は、ほぼ無い。まともに乗っていれば綺麗に焼けるはずだ。そう頻繁に劣化するものではないが、気になったら交換しよう。

 絶対に交換するべきなのは、プラグコードだ。純正のものは硬くなり劣化によりリークしやすい。プラグキャップの部分も安っぽい造りだ。NGKのイエローのものなど市販されているプラグコードに交換するべきだ。

・キャブレターのオーバーホール。初心者にはハードルが高いだろうが、やって頂きたい。必要なのは、+ドライバーと各サイズのレンチ、ポンチとハンマー、ニードル2本(お勧めできないが、爪楊枝でも可)、洗浄液に古い歯ブラシ、といったところだ。詳細についてはサービスマニュアルをご参照頂きたい。(サービスマニュアルについては下述する)しかし、キャブレター単体のOHだけでは片手落ちだ。スロットルグリップからスロットルワイヤー、チョークレバーとチョークワイヤーもワイヤーオイラーを使って注油しよう。アクセルの操作にキャブレタースプリングの感触を感じるようになればOKだ。ワイヤー類を新品に交換してみると、操作感の違いにビックリする。日頃のメンテナンスで、交換のメリットが長続きするよう頑張って頂きたい。

・ミッションオイルの交換。これは、信頼できるギアオイルを入れておけば問題ない。ただし、入れる量に留意すること。バイクが直立した状態で、クランクケースのオイル窓の中位まで確認し、一度エンジンを掛けてみる。クラッチを握ったまま、各ギアに回してみて、またエンジンを止める。オイルレベルが落ち着くのを待って、改めて適量に調整する。

一時、ミッションオイルのクランクケース内への混入が話題になったことがある。その予防のためにも適量にとどめておくことが絶対だ。

・ 冷却水・ラジエター。以上のメンテナンスであれば、冷却水を抜く必要は無い。しかし、KRのエンジン左サイドには、これ見よがしな配管がのたうっている。各部ホース・クランプの状態の確認と増し締めをお勧めする。冷却水のレベルを確認しておくことは言うまでも無い。

・エンジンオイル。気になるところだろう。私の経験からで申し訳ないのだが、@有名ブランド(ワコース・カストロールなど)の、Aなるべく粘度の低いものを、入れると安心できる。オイルポンプの吐出量は変わらないため、粘度の低いもののほうが、より多く送り出せる。焼き付き防止のために、多くのエンジンオイルを送り込むほうがベターだ。ブランドについては、安心料だと思う。多少高くてもKRの標準的なオイル消費量は、1,000q/1リットルというところだろうか。たいしたことはない。

 

 初心者は、以上のようなメンテナンスを心掛けて頂きたい。それだけでも、調子のよいKRを長く楽しむことができる。ここからは、上級者向けとなる。 

 必要なものは、トルクレンチ、インパクトドライバーなどの工具。余裕のある方はコンプレッサーとエアインパクト(ピストル型・縦型ドライバー)、液体ガスケット、デブコン、オイルストーン、スクレーパーなどなど、ロータープーラーやローターホルダーも必要だ。

 

・ まずはカムダンパ。クラッチ側のケースカバーを外していく。KRのクラッチ取り外しに特殊工具は必要ない。2段階はぐったところでカムダンパが、見えてくる。S型の場合にはナットで固定されているはずだ。このナット、逆ネジになっている。普通に回しては外れないので要注意だ。マニュアルの指定値に調整しよう。

・ ここまでバラしたのなら、同時にロータリーディスクバルブのシールも交換しよう。吸入口のゴムシールと内側の大きなOリング、クランクシャフト支持部だ。この3箇所のシールが劣化することにより、ミッションオイルのクランクケースへの混入が起きると考えられている。

・ また、外したクラッチハウジングも見てみよう。段付になっていれば、遠からずジャダーが発生する。なんと言うことは無いのだが、やはり異音が出ているエンジンは気持ち悪い。

次は左サイドだ。あまりメンテナンスで手を入れる部分が無い。ローターのプーラーやホルダーを使うのも、クランクケースを割るときだけだ。

・ 注意点はスプロケット周りのオイル漏れだ。エンジン側のスプロケット内側のオイルシールから漏れる。クランクケースからここの箇所だけ取り外せる凝った設計になっている。ミッションオイルのドレンボルトもここについている。ただし、クランクケース本体への取り付けが4本の+平頭ビスである。熱も加わっている箇所なので、あきらめてインパクトで引っ叩く。だめなら悪あがきはせず、エアインパクト(縦型ドライバー)を使おう。間違ってもピストル型のものを使ってはいけない。手で押さえるトルクが足りずに、必ずナメる。念のためにポンチとセットハンマーも購入しておくとよい。新品のネジを準備しておくことは必須だ。できる範囲内で、オイルストーンで面を出し、マニュアルの記載通りに液体ガスケットを適量塗って組み付けよう。

 エンジンを下ろしてみよう。水・オイルを抜いて、両サイドからアクセスできる部品を極力外す。できるだけクランクケース単体に近い状態にしておく。シリンダーヘッド・シリンダーも外す。そのまま使うのであればピストンも外す。クランクケース真下のニュートラルスィッチも忘れずに外そう。

車体を安定させて、クランクケース下にパンダグラフジャッキを入れる。エンジンマウントの各ボルトを緩めていく。いきなり外さないように。落としてクランクケースを本当に割ってしまったら泣くしかない。

確かエンジン後方は、マウントごと外さないとエンジンが下ろせないはずだ。外し忘れたケーブルやボルトなどを確認できるようゆっくりと作業を行うとよい。

 エンジン後方をフレーム右側から出し、つづけて前側を抜く。慣れれば1人でできないことは無い。でも作業の安全性や確実性を考えると、2人以上で行うほうがベターだろう。

 クランクケースを割ってみる。ビールケースなどの各シャフトを保持しやすい台座にクランクケースを据える。左側面の補器類をすべて外すと、左右のケースを締めている+ビスが見えてくるはずだ。これをまた縦型インパクトで外していく。全部外したか?隠しネジは無いか?よく確認しよう。プラスチックハンマーでコンコンしながら、左右を別ける。大抵どこかのネジを外し忘れて、スムーズには行かないはずだ。クランクシャフトも保持しているベアリング(前後の左右で4箇所)に固着している。時間をかけて無理をしないように丁寧に作業するといい。これであなたのタンデムツインはバラバラだ。

 はたして、クランクケースを割ってベアリングを交換して、クランクシャフトの様子を見て、ネジ部リブのクラックにデブコン塗って補修したとしよう。組み立ての前に、合わせ目は全て古いガスケットをスクレーパーで剥がして、オイルストーンで面を出しておくことが大事だ。そのうえにグリスを薄く塗って、ガスケットの固着を防止して組みつけに入るといい。左右のクランクケースの合わせ目に、ガスケットは入らない。液体ガスケットを塗って組み付ける。左右のクランクケースは、エアドライバーで確実に締め込むこと。

 あとはバラした逆の手順で組み立てていこう。指定トルクに注意すれば、なんていうことは無い。

 実は私もクランクケースを割った経験は1度しかない。しかし、1度の経験はいろいろなことを知識として私に残してくれた。長さが3種類のナット8本。取り付けネジに合わせると頭の高さがちゃんと揃う。そんなことは、バラして、組んでみないとわからないことなのだ。

 

2、 サイクルパーツ

 KRは、その特異なエンジンレイアウトから、汎用の部品はそう多く使えない。特に問題になってくるのがリアショックだ。これが通常のオートバイとは逆の作動をしている。リアタイヤが沈むとショックが伸びる。同様の機構を採用しているの、ビュエルとアプリリア(だったと思う)のワークスレーサーだけだ。丁寧なオーバーホール作業をしてくれるショップもある。特にオフロードモデルのチューニングショップではサスペンションのノウハウも豊富だ。ただし、価格は相応(20万円前後というところか)になる。あきらめて貯金することだろう。

・ アンチノーズダイブ。私は気に入っているのだが、結構評判が悪い。リング類のオーバーホールを施しても、その効果が気に入らなければ、殺しても仕方ないだろう。

 ブレーキキャリパーやマスタシリンダーを他車用に交換している人は、要注意だ。KRは悲しいかなピンスライド式1ポッドのキャリパーだ。そのシステムで流量管理されている。アンチダイブも同様だ。パーツ交換によってバランスの崩れたシステムでは、アンチダイブが効かなかったり、逆に過剰反応することがある。

・ ステンメッシュホースだが、過信していないだろうか?アールズやグッドリッヂの赤や青のアルマイト処理されたものは、見た目も綺麗だ。しかし、そのジョイント部分にクラックが入っていることがある。装着して1年以上経つ場合は、確認しておこう。各社ともジョイント部がスチールやステンレスのものも発売されている。最初からそっちを選ぶのも手である。

・ そのほか、キャリパーのシール、ブレーキパッド、ピンスライドのOH、フロントフォークのオイルシール、前後スプロケット、チェーン、前後タイヤなどの各種消耗品、オイルなどの液体の管理、きちんとやって頂きたい。

 

3、 サービスマニュアル

 かなり重刷が進んでいるようだ。今現在、新品のマニュアルが取れれば問題は無い。それを見て忠実に従って頂きたい。
 問題があるのは、第1刷・第2刷のマニュアルだ。とっととゴミ箱に捨てるといい。書いてあることが間違っている。まあ、事情はあるのだが・・・

 少なくとも、キャブレターの同調調整やカムダンパの調整数値は、後年のものと違っている。大事なのは、その初期のマニュアルが多くのバイク屋に残っており、それを基準に整備がなされていることだ。間違った辞書で勉強しても、正解は導き出せない。あたりまえだ。

 とにかく、新しいマニュアルを取り、不安があれば対象部品(特にスロットルバルブ)を交換する必要がある。

 とにかく、メンテナンスをしっかり行うことだ。カスタムは自己責任で、間違いの無いよう十分留意して頂きたい。

 「洗車はメンテナンスの第一歩」とはよく言ったモンで、私も洗車をしていて、リアキャリパーのボルト外れを発見したことがある。キレイなバイクは気持ちいいし、週末にでも洗車してみたらどうだろうか。そこから不具合が見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない。

 

 

【編集者注】

上記コラムをお持ちのプリンタで出力して、メンテナンス時の参考として下さい。
(特にエンジン脱着時とキャブレター・カムダンパ等調整時)

 ※印刷前に、必ず用紙設定しましょう!